先天性欠損歯とは?

[2024年09月09日]

みなさんのお口の中には、歯が何本生えているでしょうか。
一般的に、現代人の歯の数は乳歯20本、永久歯32本(親知らずを数えないとと28本)です。
しかし、乳歯でも永久歯でも、生まれつき歯が足りない方がいらっしゃいます。
このような状態を医学用語で『先天性欠損歯』といいます。
先天性欠損歯は、乳歯で100人に2人、永久歯では10人に1人の割合で見られる身近な形態異常です。
しかも、近年、先天性欠損歯が見られる人の割合は増加傾向にあります。
今回は、この先天性欠損歯について詳しく解説していきます。

目次

先天性欠損歯とは?

先天性欠損歯とは、本来あるはずの乳歯、永久歯が生まれつきない状態のことをいいます。
近年、この先天性欠損歯を有する方が増加傾向にあります。

◆原因

歯の元となる歯胚(しはい)が、何らかの原因で作られないと、先天性欠損歯が起こります。
その原因には、以下の3つが主に挙げられます。

  • ①進化の過程のよるもの
  • ②病理学的原因
  • ③遺伝的な突然変異によるもの

進化の過程のよるもの

人間の脳は、進化の過程において急激に増大してきました。
脳の部分が拡大する反面、顔面部分は縮小し咀嚼器官の歯や顎は退化傾向にあります。
歯の退化が、サイズの縮小ではなく本数の減少として現れているということです。

病理学的原因

これは主に以下の要因によって引き起こされます。

  • 歯の発育期における栄養障害(妊娠中も含む)
  • 感染
  • 外傷
  • 放射線障害
  • 内分泌障害
  • 先天性風疹症候群(妊娠中に母親が風疹に罹患すると、胎児にも影響が認められる)
  • ダウン症

遺伝的な突然変異

遺伝的な突然変異によっても、やはり先天性欠損歯が起こります。
6本以上の歯が欠損している場合は遺伝が大きく関係していると考えられ、その確率は全人口の0.1%と言われています。

◆分類

先天性欠損歯はその本数で以下の2つに分けられます。

  • 少数歯の欠損
  • 無歯症

少数歯の欠損

1歯から数歯の欠損です。
乳歯よりも永久歯に多くみられます。
ほとんどが進化の過程における系統発生学的な退化現象といわれています。

無歯症

多数歯の欠損を伴う場合、無歯症とよばれます。
こちらは遺伝的要因が強いといわれていますが、内分泌障害、妊娠中の感染、栄養障害などが原因となることもあります。
極めて稀です。

◆好発部位

先天性欠損歯には好発部位が存在します。
基本的に下顎に多く出現し、左右差は認められません。
男女比もないといわれています。

乳歯

乳歯の先天性欠損歯の出現頻度は、多い順に以下の通りです。

  • 下顎乳側切歯(下顎の中央より2つ目の歯)
  • 下顎乳中切歯(下顎の中央の歯)
  • 上顎乳側切歯(上顎の中央より2つ目の歯)

下顎乳側切歯が全体の8割を占めています。

永久歯

永久歯の先天性欠損歯は、親知らずを除くと以下の順に認められます。

  • 下顎第二小臼歯(下顎の中央より5番目の歯)
  • 下顎側切歯(下顎の中央より2番目の歯)
  • 上顎第二小臼歯(上顎の中央より5番目の歯)
  • 上顎側切歯(上顎の中央より2番目の歯)

下顎第二小臼歯が全体の17%を占めています。

◆発生頻度

発生頻度は乳歯と永久歯で異なりますが、永久歯の方で多くみられます。

乳歯

乳歯の先天性欠損歯は各統計で幅はありますが、1%程度の報告が多いです。
また、乳歯が先天性欠損だと、生え替わる永久歯にも75%の割合で欠損しているなどの異常が認められます。

永久歯

永久歯の先天性欠損は10.09%で、10人に1人の割合でみられます。

  • 1歯欠損は5.22%
  • 2歯欠損は2.93%
  • 3歯、4歯、および5歯以上は1%以下

一番多い欠損タイプは左右両方の下顎第二小臼歯の欠損で、14.48%です。
その次は左右両方の下顎側切歯の欠損で7.27%となっています。

先天性欠損歯によって起こりうること

先天性欠損歯が存在すると、両隣の歯が傾いたり、本来噛み合う歯が伸びてしまい噛み合わせに問題が生じます。
噛み合わせだけではなく、歯の並びがガタガタになることで、汚れが溜まりやすくなり、むし歯や歯周疾患にもかかりやすくなります。

◆乳歯が先天性欠損の場合

乳歯が先天性欠損の場合は、その時点での歯並びよりも、続いて生えてくる予定の永久歯に影響がないか注意する必要があります。
乳歯が先天的に欠損している場合、先にも述べたように75%の確率で後継の永久歯に欠損などの異常がみられることが多いです。

◆永久歯が先天性欠損の場合

永久歯が先天性欠損でそのまま放置すると、歯並びだけでなく顎の発育にも影響を与えます。
欠損歯が5歯異常あると、先天的欠損歯が上顎にのみあると、下顎前突(受け口)になりやすくなり、反対に下顎にのみ先天性欠損があると上顎前突(出っ歯)になりやすいです。

治療方法

先天性欠損歯の中でも、特に永久歯の場合は放置するのではなく治療が必要になる場合があります。
治療方法には以下の4つがあります。

◆矯正治療

矯正治療によって歯を動かし歯並びを整えます。
歯の欠損状態によっては難しいこともありますが、矯正治療とその他の治療方法を合わせて行うこともあります。
歯を削ったり、人工物を埋めたりしないので基本的には体に一番侵襲の低い治療方法ですが、保険適応外で金額や期間がかかります。

◆インプラント

人工の歯根を顎の骨に埋め、歯を再現します。
矯正治療よりも早く終わりますが、人工物を顎の骨に埋めるなどの手術をする必要があります。
こちらも保険適応外です。

◆ブリッジ

欠損部の両隣の歯を削ってブリッジで欠損部を補う方法です。
矯正治療やインプラントよりも早く終わり、保険適応にもなりますが歯を削る必要があります。

◆接着ブリッジ

ブリッジの中で、主に前歯部で行う方法です。
歯の表面だけを削るので、普通のブリッジよりも歯を削る量が少ないです。
しかし保険適応ではないため、金額がかかります。

もし、先天性欠損歯の疑いがあると言われたら

乳歯でも永久歯でも、先天性欠損の疑いがあると言われたら、まずは歯科医院を受診しましょう。

◆検査方法

多くの場合、まずはレントゲンを撮影します。
本当に歯がないのか、それとも顎の骨の中に埋まっていて何らかの理由で出てくることができないのかを判断するためです。
顎の中に埋まっている場合、ワイヤーなどでひっぱり出す方法もあります。

乳歯癒合歯について

ここで、乳歯の癒合歯について少しお話いたします。
癒合歯とは、歯と歯がくっついて一体化している状態をいいます。
乳歯では、10人中3人の割合で癒合歯を持つ子どもがいます。
最も多いのは下顎の乳中切歯と乳側切歯が癒合しているものです。
乳歯が癒合歯での後継永久歯の異常は41.2%でみられ、先天性欠損の75%よりは低いです。
しかし、乳側切歯と乳犬歯が癒合している場合、73.9%に後継永久歯に欠損等の異常が認められます。
上顎乳中切歯と乳側切歯が癒合していると、66.7%で永久歯の側切歯が欠損しているというデータがあります。
もし癒合歯がある場合も、後継永久歯が欠損してる場合があるので歯科医院を受診した方が安心でしょう。

まとめ

近年、先天性欠損歯を有する人の割合は増加傾向にあります。
それは、人間の進化の過程における一つの現象なのかもしれません。
しかし、欠損部は適切な医療管理を受けないとお口全体の健康を損ね、しいては全身の健康にも影響を与えます。
先天性欠損歯の経過観察を含めた治療方法にはさまざまなものがあります。
適切な方法を選択するために歯科医師としっかり相談しましょう。



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