小児のOSAについて 

[2025年12月14日]

はじめに

「睡眠時無呼吸症候群」という疾患をご存知ですか。最近では、交通事故の原因になることなどでクローズアップされるようになりましたね。

睡眠に関する病気というと、大人の病気のようなイメージを持たれる方も多いかと思います。しかし、睡眠時無呼吸症候群は、小児においても認められます。そして、成長や発育に影響を及ぼす重大な疾患でもあるのです。

「いつも いびきをかいている」「寝相が悪い」「朝の目覚めが悪く、頭痛を訴えることも」それは、もしかすると睡眠時無呼吸症候群のサインかもしれません。

今回は、小児の睡眠時無呼吸症候群についてお話していきましょう。

目次

1.睡眠時無呼吸症候群とは
2.小児の睡眠時無呼吸症候群の症状とその結果生じやすい合併症(日中の症状)
3.家庭でできる睡眠時無呼吸症候群対策
4.歯科でできる睡眠時無呼吸症候群対策
5.まとめ

1. 睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)とは、眠っている最中に何度も呼吸が止まってしまう疾患です。睡眠時無呼吸症候群はその原因から3つに分類されます。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA: Obstructive Sleep Apnea):空気の通り道である気道が何らかの理由で狭くなり、呼吸が止まってしまうもの。
中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA: Central Sleep Apnea):呼吸を調節している脳からの指令が出なくなることによって、呼吸が止まってしまうもの。
混合型睡眠時無呼吸症候群:閉塞性と中枢性の混合したもの。

3つの型の中でも9割が閉塞性睡眠時無呼吸症候群であり、小児の睡眠時無呼吸症候群も、そのほとんどが閉塞性であるといわれています。

小児の場合は、完全に呼吸が止まるというよりも、呼吸がしにくい状態が継続することが多く、その間は浅い呼吸となるために、苦しそうに息をするのが特徴になります。このような浅い呼吸では、十分な酸素を取り込むことができません。

その結果、脳や体に十分な酸素が供給されないために睡眠の質が低下し、心身の成長や発育に悪影響を及ぼしてしまうのです。

成人と小児の睡眠時無呼吸症候群の診断基準をみてみましょう。成人の場合は「10秒以上続く無呼吸・低呼吸が睡眠1時間あたり5回以上あること」が基準となります。それに対して、小児の睡眠時無呼吸症候群の診断は「睡眠1時間あたりの無呼吸時間が10秒に至らなくても、2回分の呼吸停止があれば無呼吸と診断できる」となります。

また、小児の睡眠時無呼吸症候群では発症のピークが2回あります。

発症ピークの1回目は2〜8歳。
この時期は、咽頭扁桃(アデノイド)と口蓋扁桃の生理的肥大がピークを迎える時期です。どちらも免疫に関与するリンパ組織で、この扁桃組織が過度に肥大することで空気の通り道が狭くなり、睡眠時無呼吸症候群を引き起こしやすくなります。

発症ピークの2回目は思春期。
この時期は成長や第二次性徴によって体重が増加しやすく、喉や首のまわりに脂肪が蓄積することで気道が狭まることがあります。

さらに、アレルギー性鼻炎、小顎症、下顎後退症、高口蓋、歯列弓の狭窄なども空気の通り道を狭くし、気道閉塞の原因となります。

2. 小児の睡眠時無呼吸症候群の症状と、その結果生じやすい合併症

小児の睡眠時無呼吸症候群でよくみられる夜間の症状をみていきましょう。

・大きないびき
・睡眠中の不規則な呼吸、陥没呼吸、呼吸が止まる
・うめき、苦しそうな呼吸、あえぐような呼吸
・眠りが浅い、何度も起きる
・うつぶせ寝や首を過度に伸ばして寝る
・寝返りの多さ、頻繁に体位を変える
・口を開けて寝る
・大量の寝汗
・夜尿症

小児では無呼吸があっても覚醒しにくいため、不規則な呼吸や体位変換の多さにつながります。

では、これらの夜間の睡眠の質の低下によって、日中にどのような影響が生じるのでしょうか。

・低身長、骨の発育不良
・集中力・記憶力の低下、学習能力の低下、認知能力の低下
・言語の発達遅延
・多動性、イライラ、情緒不安定、注意力不足
・寝起きが悪い
・朝の頭痛・疲労感
・日中の眠気・居眠り
・食欲の低下
・心血管疾患

成長ホルモンは睡眠中、特に深い眠りの間に多く分泌されます。睡眠時無呼吸症候群によって深い睡眠が得られないと成長ホルモンの分泌が不十分になり、骨や筋肉の成長が悪くなり、身長の伸びが遅くなることがあります。

成長ホルモンは骨格を強くするだけでなく脳の発達にも重要であるため、記憶力や注意力の低下にもつながってしまいます。また、脂肪分解・免疫力向上・傷の修復・心血管機能維持にも関与するため、良質な睡眠が不可欠です。

3. 家庭でできる睡眠時無呼吸症候群対策

睡眠時無呼吸症候群は、専門の医療機関でしっかりと検査をした上で、診断をしてもらう必要があります。そして、その原因に合った治療が必要となってきます。

小児の睡眠時無呼吸症候群は、心と身体の成長発育に重大な影響を及ぼす可能性が高い疾患です。迷った場合は、かかりつけのお医者さんに相談してみることをおすすめします。

ここでは、医療機関での治療と並行して、ご家庭でできることについてみていきましょう。

・ 生活習慣の改善
よく食べ、よく眠ることは健康の基本ですね。しかし、「ただ食べれば良い、眠れば良い」というわけではありません。睡眠の質を向上させるために、規則正しい生活習慣をつけることが大切です。毎朝同じ時刻に起床し、朝日を浴びる、就寝の1時間前にはスマートフォンやタブレット、PCなどの使用を控えるなどを心掛けましょう。

食生活においても、食事の時間を決めてリズムを作ることが大切です。肥満は睡眠時無呼吸症候群の引き金になります。バランスの良い食事を心掛けると共に、適度な運動(身体を使った遊び)も取り入れていけたら良いですね。運動は、肥満予防になるだけでなく、寝つきを良くする効果もありますのでオススメです。

・ 生活環境の改善
快適な睡眠には、室温・湿度、明るさの調整や清潔さを整えることが重要です。寝室の温度と湿度の調節や、掛け布団や毛布などの使い分けによって快適な睡眠環境を作っていきましょう。暗く静かな環境作りも大切です。また、ホコリや動物の毛などによるアレルギー予防の観点からも、室内の清潔さを保つようにしましょう。

・ 睡眠時の姿勢
仰向け寝は、重力によって舌の根元が気道に落ち込みやすく、空気の通りを妨げてしまうリスクが高まります。横向き寝は空気の通り道を改善することができるためおすすめです。慣れないうちは抱き枕などで体勢を安定させるとよいでしょう。また、枕の高さが高すぎる・低すぎることも睡眠時呼吸の妨げとなるため、今一度見直してみましょう。

4. 歯科でできる睡眠時無呼吸症候群対策

睡眠時無呼吸症候群により成長ホルモンの分泌不良が生じると、上下顎骨の成長にも発育不全が起こりやすくなります。顎骨の発育不全は空気の通り道を狭くしてしまい、睡眠時無呼吸症候群を悪化させやすくなります。

また、口腔周囲筋の筋力低下や口呼吸・開口習慣(お口ポカン)も空気の通り道を狭くする原因となります。つまり、睡眠時無呼吸症候群と顎骨発育不全・口腔周囲筋の低下は、お互いに症状を悪化させる悪循環を生じるのです。この悪循環を断ち切るために、歯科でできる治療についてみていきましょう。

・ 矯正治療による顎骨劣成長の改善
一般的によく用いられるのが「拡大装置」と呼ばれるものです。これは上顎の歯並びのアーチを骨から横に広げるもので、上顎が小さいことで気道の狭窄や舌のスペース不足が生じている際に有効です。また、歯並びの悪さが原因の場合は歯列矯正、骨格が原因の場合は外科矯正手術の適応となることもあります。

・ 口腔筋機能療法(MFT)
舌の位置異常や口腔周囲筋の筋力不足によって口呼吸や開口(お口ポカン)が見られる場合に有効です。口腔筋機能療法は、舌や周囲の筋肉を鍛え、正しい機能を行えるように導くトレーニングです。睡眠時無呼吸症候群の改善だけでなく、口呼吸の改善、口腔内乾燥の防止、虫歯・歯周病・口臭・感染症の予防にもつながります。

このように、睡眠時無呼吸症候群は歯科とも関係が深く、その治療に歯科が関与することも多くあります。しかし大切なのは、まず医科で正確な診断を受けることです。

例えば、睡眠時無呼吸症候群の原因が慢性的な鼻呼吸障害による場合。鼻呼吸がしにくいために口呼吸が習慣化し、それが開口習慣(お口ポカン)や口腔周囲筋の低下を招き、顎骨の発育不全や歯列弓の狭窄を引き起こします。その結果、気道がさらに狭くなり睡眠時無呼吸症候群へとつながってしまいます。

このように鼻疾患が原因で鼻呼吸ができない場合、歯科での治療を進めても根本的な治療にはなりません。その場合はまず耳鼻咽喉科での治療を優先する必要があります。

睡眠時無呼吸症候群の原因は人それぞれです。まずは原因を見極め、その改善に向けた治療やトレーニングを行うことが重要なのです。

5. まとめ

・睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている最中に何度も呼吸が止まってしまう病気であり、その多くが気道の狭窄によるものである。
・小児の睡眠時無呼吸症候群では、睡眠の質の低下により成長ホルモンの分泌が減少し、心身の発育に重大な悪影響を及ぼすことがある。
・家庭でできる対策として、生活習慣・睡眠環境の改善、睡眠姿勢の工夫がある。
・歯科での対策として、矯正治療や口腔筋機能療法(MFT)が有効である。

睡眠時無呼吸症候群は大人の場合、日中の眠気が問題になりやすい病気です。しかし小児では、落ち着きのなさや注意力不足といった行動面の問題として現れやすく、ADHD(注意欠如多動症)と症状が似ているため誤解されることもあります。

小児期の睡眠時無呼吸症候群は、この時期に非常に大切な心と身体の成長発育を妨げる疾患です。睡眠時無呼吸症候群は歯科とも関わりが深い疾患ではありますが、その確定診断は医師のみが行うことができます。歯科では医科の診断結果および原因をふまえ、連携しながら歯科的な改善を進めることが重要です。

お口のことで何か気になることがあれば、いつでもご相談ください。



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