昔の人はどうやって虫歯を治していたか
[2026年10月28日]
◯はじめに
歯を削る機械も麻酔もない時代、昔の人は虫歯をどうしていたのでしょうか。現在のように虫歯部分を取り除き、詰め物などで歯の形を修復する治療は、一般的ではありませんでした。薬草や祈りで痛みをしのぎ、耐えられなくなると歯を抜く方法が長く用いられてきました。
一方で、石器を使って歯を処置した可能性を示す古い痕跡も報告されています。この記事では、古代の試み、日本の江戸時代、近代歯科医学の始まりをたどり、現代の虫歯治療との違いを解説します。
◯目次
- ◯昔の虫歯治療はどのようなものだったか
- ◯日本の昔の虫歯治療と江戸時代の対処法
- ◯近代化によって変化した日本の虫歯治療
- ◯昔と現代の虫歯治療の3つの違い
- ◯まとめ:昔の虫歯治療を知り、早めの受診につなげよう
◯昔の虫歯治療はどのようなものだったか
古代の処置には、現在の治療に通じる試みと、当時の信仰にもとづく方法が混在していました。現在のように虫歯を治療するというよりも、痛みを和らげたり、痛みの原因と考えられていたものを取り除いたりすることが主な目的だったと考えられます。
◆石器による処置の可能性を示す痕跡
2026年にPLOS ONEで発表された研究では、約5万9,000年前のネアンデルタール人の奥歯に、石器を使って処置した可能性を示す痕跡が報告されました。顕微鏡による観察と再現実験をもとに、意図的な処置だった可能性が示されています。
また、2015年の研究では、約1万4,000年前の人の奥歯に、先のとがった石器で虫歯部分をかき取った痕跡が見つかりました。現在の治療と同じ精度ではないものの、人類がかなり古くから歯の痛みの原因へ直接働きかけていたことがうかがえます。
◆虫歯の原因を歯の虫と考えた時代
細菌を観察できなかった時代には、虫歯や歯痛は歯の中にいる虫が引き起こすと考えられていました。この考えは古代メソポタミアだけでなく、ヨーロッパやアジアにも広く見られます。
虫を追い出すための呪文や、薬草をいぶした煙を口に入れる方法などが行われました。痛みが一時的に変化することはあっても、虫歯で失われた歯を元に戻す処置ではありません。原因が分からない中で、目の前の痛みに対処しようとした方法でした。
◯日本の昔の虫歯治療と江戸時代の対処法
江戸時代には、口の病気を扱う口中医、抜歯をする歯抜き師、入れ歯を作る職人などがいました。ただし、誰もが現在と同じ水準の処置を受けられたわけではありません。
◆薬草やまじないによる痛みへの対処
2013年の「江戸時代人の歯と歯科医療」には、神仏への祈願、まじない、鍼灸、歯痛止めの薬などが紹介されています。1693年に出版された『救民妙薬集』には、庶民が手に入れやすい材料を歯につける方法も記されていました。
こうした方法の多くは、虫歯部分を除去して歯を修復するものではありません。歯科医院が身近ではなかった時代、痛みに耐えながら暮らすための手段として使われていたと考えられます。
◆口中医や歯抜き師による抜歯
虫歯が進行して強い痛みが生じた場合には、原因となる歯を抜くこともありました。当時は現在のような局所麻酔や衛生管理が整っておらず、体への負担が大きい処置だったとみられます。
江戸時代の抜歯には、口中医などの専門家だけでなく、街頭で歯薬を売る者が関わることもありました。誰が、どの道具で処置するかに幅があり、歯を残しながら治す選択肢は限られていたのです。
◆失った歯を補った木製の入れ歯
抜いた歯や自然に失った歯を補うため、日本では木製の入れ歯が作られました。ツゲなどの木を削り、お口に合わせた形へ仕上げる技術です。江戸時代には、仏像を彫る技術を持つ仏師などが製作に関わったと伝えられています。
入れ歯は虫歯そのものを治す道具ではありませんが、失った後に噛む機能を補う工夫でした。古い入れ歯には、実際に使われていたことを示す摩耗や歯石が残るものもあります。
◯近代化によって変化した日本の虫歯治療
幕末から明治にかけて西洋の歯科医学が伝わり、虫歯部分を取り除いて歯を修復するなど、できるだけ歯を残すための治療技術が広がっていきました。歯科医師の資格制度もこの時期に形づくられます。
◆西洋歯科医学と専門家の登場
日本歯科医師会によると、外国人歯科医師W.C.イーストレーキが1860年に来日し、西洋歯科医学を伝えました。1875年には小幡英之助が歯科を専門とする医術開業試験に合格し、日本で最初の近代的な歯科専門医とされています。
1883年には歯科医籍が作られ、1906年には歯科医師法が公布されました。知識や技術を学び、資格を持つ歯科医師が治療を担う仕組みが整っていきます。
◆歯を抜く治療から残す治療への変化
回転する器具、局所麻酔、歯に詰める材料などの発達によって、虫歯部分を取り除き、残った歯を修復する治療が行われるようになりました。虫歯が進行して歯の神経にまで影響が及んだ場合には、歯の内部にある根管を清掃・消毒し、歯を残すことを目指す根管治療も行われます。
もっとも、進行度や歯の割れ方によっては、現代でも抜歯が必要です。治療技術が進歩した現代でも、すべての歯を残せるわけではありません。歯の状態を詳しく調べたうえで、適切な治療方法を選択することが大切です。
◯昔と現代の虫歯治療の3つの違い
現代は、痛みを抑えるだけでなく、虫歯の進行度を調べて歯を守る選択肢が広がりました。早く見つけるほど、処置の負担を抑えられる可能性が高まります。
◆初期なら削らず管理できる可能性
歯の表面が白く濁る程度で、まだ穴が開いていない初期の虫歯は、歯垢を減らし、フッ化物を活用しながら経過を見ることがあります。唾液やフッ化物の働きによって、歯から溶け出したミネラルが再び歯に取り込まれる「再石灰化」を促し、虫歯の進行を抑えることを目指します。
初期かどうかを自分で判断するのは難しく、白い部分がすべて虫歯とも限りません。削る必要があるかは、歯科医院で確認してもらいましょう。
◆進行度に合わせて歯を修復する方法
穴が開いた虫歯では、必要に応じて虫歯部分を取り除き、コンポジットレジン(歯科用プラスチック)やセラミックなどで歯の形を補います。虫歯が神経にまで影響している場合には、神経の状態に応じて根管治療などを検討します。また、歯を残すことが難しい場合には、抜歯が必要になることもあります。
痛みの強さと虫歯の大きさは一致しないことがあります。痛みがなくても虫歯が進行している場合があるため、見た目や自覚症状だけで判断せず、歯科医院で確認してもらうことが大切です。
◆検査と予防で早期発見を目指す仕組み
視診や必要に応じたレントゲン検査によって、歯と歯の間や詰め物の周囲など、目では確認しにくい虫歯を調べることができます。治療後も、毎日の歯磨きやフロス、定期的な検診で新しい虫歯を早く見つけることが重要です。
昔のように痛みを我慢し、抜歯が必要になるまで待つ必要はありません。冷たい物がしみる、噛むと痛む、歯が欠けたといった変化があれば、症状が軽いうちに相談してください。
◯まとめ:昔の虫歯治療を知り、早めの受診につなげよう
昔の人は、石器で虫歯部分を削る試みをしたり、薬草やまじないで痛みをしのいだりしていました。江戸時代には口中医や歯抜き師が抜歯を行い、失った歯を木製の入れ歯で補う技術も発達します。
現在では、初期の虫歯を削らずに管理する方法から、詰め物による修復、根管治療、抜歯まで、歯の状態に応じたさまざまな治療方法があります。痛みが出るまで待たず、定期的に歯科医院で確認してもらうことが、自分の歯を残すことにつながります。


