江戸時代の「お歯黒」と現代の審美歯科の共通点

[2025年10月07日]

はじめに

お歯黒の説明や歴史とともに、現在の美意識と比較しながらお歯黒を解説しています。
いつの時代も、審美と機能面を両立できる歯科治療が模索されていました。お歯黒もその結果、生み出された努力の賜物です。この探求心が今日の歯科治療の進歩につながったのでしょう。
ぜひ、現代の「歯を白くしたい」という美意識と「歯を黒くしたい」というお歯黒の美意識を比較しながら、読んでみてください。

目次

  • ◯お歯黒とは
  • ◯お歯黒の歴史と目的
    •  ◆お歯黒の歴史
    •  ◆江戸時代にお歯黒が広まった背景
    •  ◆虫歯予防や歯の保護という実用面
  • ◯現代の審美歯科との共通点
    •  ◆見た目の美意識
    •  ◆健康と審美を両立させる目的
  • ◯まとめ

お歯黒とは

お歯黒とは、その名の通り歯を黒く染めることです。歯を白く見せることが美しいとされている現代とのギャップで、お歯黒文化を知らない方は驚くかもしれませんが、お歯黒は当時、美の象徴でした。江戸時代では、顔を白い白粉で塗り、黒い歯が映えることが、妖艶で魅力的だとされていました。
時代が変われば、美意識も異なります。当時の人はどんな思いでお歯黒をしていたのかをこちらの記事で紹介しています。
ぜひ楽しみながらお読みください。

お歯黒の歴史と目的

日本のお歯黒の歴史は古く、一番古い記録は「魏志倭人伝」だとされています。また、お歯黒は女性特有のイメージがあるかもしれませんが、実は男性もしている時期がありました。
では、お歯黒の歴史と目的をみていきましょう。

お歯黒の歴史

  • 古代:貴族の男子と女子の風習だった。(「古事記」に記載あり)
  • 平安時代:武士達が公家の真似をしてお歯黒をするようになった。
  • 鎌倉時代:鎌倉幕府が上級武士と下級武士を区別するため、下級武士に対しお歯黒を禁止した。これにより上級武士と女性のみが、お歯黒をするようになった。
  • 戦国時代から江戸時代:公家の一部と、既婚女性専用の風習となった。
  • 明治時代:華族へのお歯黒禁止令が出された。文明開化によりだんだんとお歯黒文化が廃れていく。

江戸時代にお歯黒が広まった背景

最も、お歯黒が流行していたのが江戸時代です。江戸時代以前はお歯黒は、公家などの上流社会の文化でしたが、江戸時代になると、徐々に一般庶民にもお歯黒文化が広がりました。それにつれ男性のお歯黒文化はなくなり、お歯黒と言えば女性、という風潮になりました。
では、どうしてお歯黒は女性に広く普及したのでしょうか。それはこちらのような理由が考えられます。

  • 元々は武家の既婚女性だと示す生活慣習だった
  • 一般女性にも広がり、既婚女性の象徴となった
  • 黒は何色にも染まらない色とされ、「貞女二夫にまみえず」という貞操を意味していた
  • 白粉で白くした顔、お歯黒という化粧が流行していた

元々は生活慣習の一部でしたが、お歯黒が一般庶民に広がるにつれ、ファッションの一環として扱われるようになりました。

虫歯予防や歯の保護という実用面

お歯黒は見た目だけではなく、虫歯予防や歯の保護という実用面においても役立っていました。
お歯黒の材料は、植物のタンニンが成分である「ふし粉」と酢酸第一鉄が成分である「鉄漿水(かねみず)」です。
タンニンは、虫歯菌の酸によって歯が溶けるのを防ぎ、第一鉄は歯の耐酸性を上げ、歯を強くする役割をしています。また、お歯黒の黒い成分は第一鉄が酸化した第二鉄でできており、この黒い成分が歯を覆うことで、虫歯菌が歯に付着するのを防ぎました。
これらの作用により、お歯黒が、歯を虫歯や痛みから守っていたことが分かります。
「お歯黒の女性には歯医者はいらない」という言い伝えもあるように、お歯黒は虫歯予防に一役買っていたようです。
現在も、小児の虫歯予防として使われている「フッ化ジアンミン銀」はこのお歯黒を元にして考案されました。

現代の審美歯科との共通点

現代は「白く整った歯」が美しいとされていますが、江戸時代では「お歯黒」が美しいとされていました。現代の美意識と違い過ぎて、お歯黒のどこに魅力があったのかを推測するのが難しいですね。
こちらでは、お歯黒の審美的な面についてご紹介したいと思います。

見た目の美意識

お歯黒は、貞淑を表す生活慣習としても使われていましたが、ファッションの一部としても用いられていたことが分かっています。
お歯黒はこちらのような目的があったとされています。

  • 化粧やファッションの一環
  • ムラなく歯を黒く染めることが美しいとされていた
  • 白粉と歯の黒さのコントラストが美しく、色気があるとされていた
  • 歯を黒くすることによって、歯並びや歯の色を目立たせず、顔の印象を優しく変えることができた

歯の色が「黒」か「白」の違いだけで、この美意識は現代にも通じる物があるのではないでしょうか。
現代の審美歯科は、ホワイトニングやセラミック治療で歯の色を白くし、歯の形を整えることで美しい口元にすることが求められています。
白い歯は健康的で、清潔感があり、若々しいといったイメージが現代にはあるので、白い歯が好まれていますが、時代が変われば「白」よりも「黒」の方が美しいと言うように美意識が変化するのは、なんだか不思議ですね。

健康と審美を両立させる目的

お歯黒は見た目だけでなく、虫歯予防という観点からも広まったとされています。昔の人は、化学的なメカニズムまでは分からなくても、経験則でお歯黒が虫歯予防に役立つと分かっていたのでしょう。
審美目的だけにとらわれて、歯の健康をおろそかにしてしまうのは本末転倒です。歯の健康と審美が両立して初めて歯科治療と言えるのは今も昔も同じですね。

まとめ

お歯黒は、虫歯予防にもなり、女性の美を引き立たせるとされていましたが、文明開化が進み、欧米諸国の文化が取り入れられるにつれ衰退しました。そして、現代では欧米人のような白くて整った歯が美しいとされる美意識が主流になりました。
このように、時代や文化が変われば美意識も変化していきます。
しかし、どの時代の人にとっても「美しくなりたい」という根本的な欲求は変わらず、この欲求は普遍的ではないでしょうか。
現代でも「審美」と「健康」の両方を兼ね備えた歯科治療が考案され続けています。どちらも諦めることなく、審美的にも機能的にも満足していただける治療を患者さんに提供できれば、と思います。



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