噛む力が認知症予防に与える影響と対策

[2025年07月11日]

はじめに

最近、テレビや新聞で「認知症予防」という言葉をよく耳にするようになりました。厚生労働省の発表によると、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されています。

「認知症は予防できるのか」「何か対策はあるのか」と疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。実は、私たちが毎日行っている「噛む」という行為が、認知症予防に大きく関わっていることが最近の研究で明らかになってきました。

「最近、固いものが噛みにくくなった」「食事の時間が長くなった」「入れ歯が合わなくて困っている」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひこの記事をお読みください。今回は、噛む力を維持することが、いかに脳の健康に重要かをお伝えします。

目次

  • ◯噛む力と脳の関係とは
    •  ◆咀嚼が脳に与える影響
    •  ◆噛む回数と認知機能の関連性
  • ◯噛む力が低下する原因と影響
    •  ◆歯の喪失と咀嚼機能の低下
    •  ◆認知症リスクの増加
  • ◯噛む力を維持・向上させる方法
    •  ◆日常でできる咀嚼トレーニング
    •  ◆歯科医院でのケアの重要性
    •  ◆入れ歯やインプラントによる機能回復
  • ◯まとめ

噛む力と脳の関係とは

咀嚼が脳に与える影響

食べ物を噛むという行為は、単に栄養を摂取するためだけではありません。噛むことによって、あごの筋肉が動き、その刺激が脳に伝わることで、脳の血流が良くなり、神経細胞が活性化されることが分かっています。

東北大学の研究では、咀嚼時に脳の前頭前野という部分の血流が増加することが確認されています。前頭前野は記憶や判断、思考を司る重要な部位で、認知機能と深く関わっています。つまり、しっかりと噛むことで、脳の「認知機能を司る部分」を直接刺激していることになるのです。

また、噛むリズムは脳波にも影響を与え、集中力や注意力の向上にも効果があると報告されています。昔から「よく噛んで食べなさい」と言われてきたのは、このような科学的根拠があったからなのです。

噛む回数と認知機能の関連性

神奈川歯科大学の長期追跡調査では、1日の咀嚼回数が多い高齢者ほど、認知機能の低下が少ないという結果が出ています。具体的には、1回の食事で噛む回数が1,000回以上の方と500回未満の方を比較すると、認知症の発症リスクに1.5倍の差があることが分かりました。

現代の食事は柔らかいものが中心になりがちで、昔と比べて噛む回数が大幅に減少しています。戦前の日本人は1回の食事で約1,400回噛んでいたのに対し、現在は約600回程度まで減少しているのが現状です。

このような背景から、意識的に噛む回数を増やすことが、認知症予防において重要な要素となっています。

噛む力が低下する原因と影響

歯の喪失と咀嚼機能の低下

加齢とともに歯を失うことは自然な現象かもしれませんが、その影響は想像以上に大きいと言われています。歯が1本失われるだけでも咀嚼効率は大きく低下し、複数の歯を失うとさらに深刻な問題となる可能性があります。

特に奥歯は咀嚼において重要な役割を果たしています。奥歯を1本失うと、咀嚼能力は約30%低下するといわれています。また、上下の歯の噛み合わせのバランスが崩れることで、あごの筋肉の動きも不自然になり、脳への刺激も減少してしまいます。

歯周病や虫歯による歯の痛みも、咀嚼機能の低下につながります。痛みがあると自然に反対側で噛むようになり、片側咀嚼の習慣がつくことで、あごの筋肉のバランスが崩れ、最終的には脳への刺激も偏ってしまいます。

認知症リスクの増加

咀嚼機能の低下は、単に食事が困難になるだけでなく、様々な健康問題を引き起こします。まず、食べられる食品が限られることで栄養バランスが偏り、脳に必要な栄養素が不足しがちになります。

また、食事への興味や楽しみが減ることで、社交的な食事の機会も減少し、社会的な刺激も少なくなります。このような複合的な要因が重なることで、認知機能の低下が加速される可能性があります。

実際に、歯が20本未満の高齢者は、20本以上の方と比べて認知症発症リスクが1.9倍高いという調査結果も報告されています。これは「8020運動(80歳で20本の歯を残そう)」が推進される理由の一つでもあります。

噛む力を維持・向上させる方法

日常でできる咀嚼トレーニング

噛む力は筋肉と同じで、使わなければ衰えますが、適切なトレーニングで維持・向上させることができます。まず、食事の際は一口30回以上噛むことを心がけてください。最初は数を数えながら食べると良いでしょう。

咀嚼筋を鍛える簡単な運動もあります。口を大きく開けて5秒間キープし、その後しっかりと口を閉じて歯を噛み合わせる動作を1日10回程度行うことで、あごの筋肉を鍛えることができます。

また、ガムを噛むことも効果的です。シュガーレスガムを1日15分程度噛むことで、咀嚼筋の維持と唾液分泌の促進が期待できます。ただし、あごに痛みがある場合は無理をせず、歯科医師に相談してください。

食材選びも重要です。適度に歯ごたえのある食材(根菜類、こんにゃく、きのこ類など)を意識的に取り入れることで、自然と噛む回数を増やすことができます。

歯科医院でのケアの重要性

日常のケアとともに、歯科医院での専門的なケアも重要です。定期的な歯科検診により、虫歯や歯周病の早期発見・治療ができ、歯の喪失を防ぐ可能性を高くすることが期待できます。

また、歯科衛生士による専門的なクリーニング(PMTC)により、自分では除去できない汚れを取り除き、口腔環境を良好に保つことができます。これにより、歯周病の進行を防ぎ、長期的に咀嚼機能を維持することが期待できます。

噛み合わせの調整も重要です。わずかな噛み合わせのズレでも、長期間続くとあごの筋肉に負担をかけ、咀嚼効率の低下につながります。歯科医師による適切な噛み合わせの調整により、効率的な咀嚼が可能になります。

入れ歯やインプラントによる機能回復

既に歯を失ってしまった場合でも、適切な治療により咀嚼機能を回復することができます。例を挙げると、入れ歯やブリッジ、インプラントが代表的な治療方法になります。

特に、インプラント治療は天然歯に近い咀嚼力を回復できる治療法として注目されています。インプラントにより安定した噛み合わせを得ることで、しっかりと噛むことができ、脳への適切な刺激を維持することが可能になります。

部分入れ歯やブリッジの場合は、残っている歯を大切にすることが重要です。それぞれの装置と天然歯が協力して機能することで、より良い咀嚼機能を維持できます。

どの治療法が最適かは個人の状況により異なりますので、歯科医師とよく相談して選択することが大切です。

まとめ

噛む力と認知症の関係について詳しくお伝えしました。毎日の「噛む」という行為が、脳の健康維持に重要な役割を果たしていることがお分かりいただけたでしょうか。

認知症予防のために特別なことをする必要はありません。まずは毎日の食事で一口30回噛むことから始めてみてください。そして、定期的な歯科検診により口腔の健康を維持し、必要に応じて適切な治療を受けることで、生涯にわたって「噛む力」を維持することができます。

「いつまでも自分の歯で、美味しく食事を楽しみ、脳も健康に保つ」これこそが、真の健康長寿の秘訣といえるでしょう。気になることがございましたら、お気軽に当院までご相談ください。あなたの「噛む力」を維持するお手伝いをさせていただきます。



mapを見る

電話をかける