ADHDと口腔習癖(食いしばり・口呼吸)の関連

[2025年12月06日]

はじめに

「ADHDの子どもは歯ぎしりや口呼吸が多い?」そんな疑問をもつ保護者の方は少なくありません。
実際、ADHD(注意欠如・多動症)と口腔習癖(こうくうしゅうへき:歯ぎしり・食いしばり・口呼吸など)には、直接の「原因と結果」とまではいえないものの、一定の関連があることが研究で報告されています。
お子様の歯ぎしりや口呼吸は、生活習慣や成長段階、ストレスなどさまざまな要因が重なって起こることが多く、早めの気づきと環境整備で改善するケースもあります。
この記事では、ADHDと口腔習癖の関係、最新の研究でわかってきたこと、家庭でできるサポート方法について、歯科の視点からわかりやすくお伝えします。

ADHDと口腔習癖の関連性

ADHDの子どもは、注意のコントロールや感情の切り替えが難しいことがあります。そのため、無意識のうちに体に力が入ったり、呼吸が浅くなったりし、口や顎まわりの動きにも影響が出ることがあります。
ここでは代表的な3つの傾向を紹介します。

注意・衝動性が強いと食いしばりが起こりやすい

集中しているときや緊張しているときに、歯を強くかみしめる子は少なくありません。ADHDの特性として、集中が続きにくい一方で、興味のあることには極端に集中する「過集中」があります。
この状態で長時間歯を食いしばると、歯や顎の筋肉に負担がかかります。
歯のすり減り(咬耗)や顎のだるさが見られる場合は、歯医者で相談してみましょう。必要に応じて歯の保護や噛み合わせのチェック、日中の姿勢・休憩の取り方などを一緒に確認できます。

集中時に無意識の口呼吸が増える

鼻が詰まりやすい、口を閉じておく力(口唇閉鎖力)が弱い、または姿勢が崩れやすい場合、勉強やゲーム中に口呼吸になりやすいことがあります。
口呼吸が続くと、口の中が乾燥してむし歯や歯肉炎のリスクが上がるほか、いびきや睡眠の質にも関係することがあります。
まずは耳鼻科で鼻の通りやアレルギー、扁桃腺などを確認し、歯医者で舌の位置や口の閉じ方、飲み込み方のくせ(嚥下癖)を見てもらうのが安心です。

不安やストレスからの歯ぎしり

寝ている間の歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)は、心理的ストレスがきっかけで強くなることがあります。新しい環境への不安、学校行事、生活リズムの変化などが重なると起こりやすくなります。
歯ぎしりは成長とともに自然に軽くなることもありますが、歯が欠ける・知覚過敏が出る・顎が痛む場合は受診が必要です。
マウスピースが勧められることもありますが、年齢や歯並びによって適応が異なるため、歯医者と相談して判断しましょう。

研究でわかってきたこと

近年、ADHDと口腔機能との関係について多くの研究が進んでいます。因果関係を断定できるものではありませんが、共通する傾向がいくつか報告されています。

ADHD児は歯列不正や咬合異常が多い傾向

ADHDの子どもには、開咬(前歯が閉じない)や叢生(歯並びのデコボコ)が多い傾向があるとする報告があります。これは、口呼吸や舌の位置のくせ、姿勢の崩れなどが関係していると考えられています。
歯並びは成長に合わせて変化するため、早い段階で定期的に歯医者で確認し、必要に応じて舌や口の機能トレーニング(口腔筋機能療法)を取り入れると良いでしょう。

睡眠障害(いびき・無呼吸)との関連

いびきや無呼吸がある子どもは、睡眠の質が下がり、日中の集中力や情緒の安定に影響することがあります。実際、睡眠時無呼吸とADHD様症状の関連を指摘する研究もあります。
睡眠中にいびきが強い、息が止まる、朝起きにくいといった場合は、耳鼻科で扁桃腺やアデノイドの肥大を調べてもらうのが良いでしょう。必要に応じて睡眠検査を行うことで、改善の方向性が見えてきます。

神経伝達物質(ドーパミン)と咀嚼行動の関係

ADHDでは、注意や行動の調整に関わる神経伝達物質「ドーパミン」の働きが影響しているといわれています。咀嚼(噛むこと)は、この神経活動と関係する可能性があり、噛む刺激がストレス緩和に役立つという研究もあります。
ただし、「たくさん噛めば症状が良くなる」などの根拠はありません。過度な食いしばりを避けつつ、よく噛める環境(姿勢や食事時間)を整えることが大切です。

対応とサポート

ADHDの子どもの口腔習癖は、「やめなさい」と言ってすぐ改善するものではありません。評価→環境整備→トレーニング→見直しという流れで、無理のないサポートを続けることが重要です。

定期的な歯科チェックで早期発見

歯医者では、歯や歯茎の健康だけでなく、舌や唇の動き、噛み合わせ、呼吸の状態なども総合的に確認できます。
①歯のすり減り・欠け・知覚過敏
②口の乾燥・口臭・歯肉の腫れ
③舌の位置や動き、口唇閉鎖力
④歯列や顎の発達段階
これらを見ながら、必要に応じて耳鼻科や小児科への紹介を受けることもあります。早めに気づくことで、将来の歯列不正や顎のトラブルを防ぐことができます。

口呼吸改善のためのトレーニング(舌・呼吸法)

口呼吸の改善には、原因の確認と同時に舌と唇のトレーニングが有効な場合があります。
例として、
① 舌の先を上の前歯の少し後ろに軽く当てる「スポットポジション」を意識する
② 鼻で静かに呼吸しながら、唇を軽く閉じる練習を行う
③ 背筋を伸ばし、正しい姿勢で座る
④ 寝る前に鼻の通りを確認する
これらを短時間でも毎日続けることで、自然と鼻呼吸の時間が増えていきます。無理をせず、歯医者で指導を受けながら進めるとより効果的です。

ストレスマネジメントや生活習慣改善との併用

歯ぎしりや食いしばりは、ストレスや睡眠不足と関係します。家庭でできる整え方としては、

  • ・寝る時間・起きる時間を一定にする
  • ・寝る前のスマホやテレビを控える
  • ・就寝前にリラックスできる時間をつくる
  • ・日中の集中作業では、20分に1回は体を伸ばす

といった小さな習慣を意識すると、緊張が減り、口腔習癖の軽減にもつながります。

まとめ:ADHDと口腔習癖は切り離せない。歯科と医科が連携してサポートすることが大切

ADHDの子どもに見られる歯ぎしり・口呼吸・食いしばりは、成長や環境、ストレス、睡眠など複数の要因が関係しています。大切なのは、「どれか1つが原因」と決めつけず、総合的に観察していくことです。
まずは歯医者での機能評価から始め、必要に応じて耳鼻科・小児科と連携しながら、家庭では姿勢や呼吸、睡眠環境を整えていきましょう。早めの気づきと支援で、歯と心身の健やかな成長を守ることができます。



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